Will Downing / Test Of Time - 静寂とグルーヴの狭間で、美しく時間を溶かす極上Piano House

Will Downing / Test Of Time

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静寂とグルーヴの狭間で、美しく時間を溶かす極上Piano House。1989年という時代は、Houseミュージックが単なるクラブ・ミュージックから感情を表現する音楽へと進化し始めた重要な転換期でもありました。ChicagoやN.Y.のクラブでは、ただ踊らせるだけではなく、空間全体をドラマティックに演出する美しさが求められ始めていた頃…その空気感を極上の形で封じ込めたのが、Will Downingによる Test Of Time、そして今回レコメンドする Test Of Time (Timeless Piano Version) です。


Will Downingの歌をあえて後景へ退かせた大胆なMix

USの実力派ヴォーカリストWill Downingといえば、滑らかで深みのあるバリトン・ヴォーカルで知られ、80年代後半〜90年代のSoul〜Quiet Stormシーンで絶大な支持を獲得したシンガーです。当然ながら通常であれば、その魅力的な歌声を中心に据えて楽曲を組み立てるハズ…しかし、この盤で本当に驚かされるのは、そのWill Downingのヴォーカルを大胆に後景へと退かせ、ピアノの旋律美を主役に据えてしまったDef Mix Productionのセンスでしょう。歌を削るコトによって楽曲の魅力を減らすのではなく、むしろオリジナルに秘められていた感情だけを抽出し、まったく別の方法で表現してしまう。この発想こそRemixという文化がおもしろかった時代ならではの魅力ですね。


David Morales & Frankie Knucklesによる「引き算」のHouse

David Morales & Frankie KnucklesというHouse史に残る2人の巨匠が手掛けているにもかかわらず、このTimeless Piano Versionは典型的なピークタイム仕様ではありません。むしろ真逆で、華美な装飾や過剰なエフェクトを削ぎ落とし、スィングするリズムと繊細なピアノを中心に情緒を描き切っています。フロアをイッキに沸かせる強烈なリフもナイし、大きなドロップで驚かせるワケでもナイ。それでも聴き始めると不思議なホド引き込まれてしまうんですよね。足し算ではなく引き算によってグルーヴを深くしていく…音を鳴らすコトと同じくらい、音を鳴らさない瞬間を大切にする。この「間」の感覚にこそDef Mix Productionの成熟したセンスがカンジられます。


クラシカルな品格とBlack Musicのグルーヴを持つピアノ

聴いた瞬間、まず耳を奪われるのは、空間を柔らかく包み込むエレガントなコード感…そこへ絶妙に抑制されたビートがゆっくりと入り込み、自由に舞うようなピアノ・ソロが滑り込んでくる。このピアノが本当に素晴らしいっ!クラシカルな品格を持ちながら、決して上品なだけではなく、その奥にはBlack Music特有のグルーヴがしっかり存在しています。鍵盤がリズムの上を自由に行き来しながら、ときにはメロディを奏で、ときにはビートへ寄り添い、またある瞬間には完全に空間を支配する。まるでピアニストがその場の空気に反応しながら即興で演奏しているような生々しさがあり、聴いていると深夜のマンハッタンを独りで歩いているような感覚すら覚えます。


一音の余韻まで聴かせる「間」の美学

特にブレイク以降の展開は圧巻です。ビートを極限まで削ぎ落としたコトで、それまでグルーヴの中に存在していたピアノが突然むき出しになり、一音一音の響きと余韻が驚くホド鮮明に浮かび上がってくる。その音が消えていく瞬間まで含めて楽曲の一部になっているんですよね。通常のDance Musicであれば空白を埋めたくなるトコロを、あえてナニも鳴らさず、その静寂を次の音への期待感へ変えてしまう。この大胆な余白によって、楽曲全体に圧倒的な「間」の美学が生まれています。ハデではないのに強烈に耳に残る…むしろ音数が少ないからこそ、ひとつひとつの音がココロへ深く入ってくる。この感覚こそSoulful Houseが持つ美しさのひとつなのでしょうね。


Test Of Timeというタイトルが音だけで見えてくる

タイトルの Test Of Time=「時の試練」というコトバも非常に象徴的です。オリジナル・ヴァージョンでは、愛や絆が時間を超えて残り続けるコトを歌っていますが、このTimeless Piano Versionでは、そのメッセージがコトバではなく「音」そのものによって表現されているように感じられます。Will Downingのヴォーカルが前面から姿を消したコトによって、逆に聴き手それぞれの記憶や感情が入り込む余白が生まれている。ピアノのフレーズを聴きながら、誰かを思い出す人もいれば、過ぎ去った時間を思い出す人もいるでしょう。歌詞で意味を限定するのではなく、旋律だけで感情を想起させる…だからこそ、このVersionにはTimelessという名前が驚くホド似合っています。


ピークタイムの先にあるHouse Music

House Musicのおもしろさは、必ずしもフロアをピークへ持っていく曲だけにあるワケではありません。当時のクラブでは、長い夜を踊り続けた後の時間帯に、こうしたメロディアスでSoulfulな楽曲が大きな意味を持っていました。強烈なビートで身体を動かす時間を経たからこそ、朝方に聴くピアノの一音が驚くホド深く沁みる…踊り疲れたフロアを優しく包み込みながら、その夜に体験した時間の余韻を残していくんですよね。DJが単に曲を並べるのではなく、一晩をひとつのストーリーとして構築していた時代だからこそ、このような楽曲が必要だったのでしょう。ピークタイムではなく、その先にある感情まで含めてDance Music。その豊かさがこの曲にはあります。


Club Versionとは違う「聴くHouse」の魅力

もちろんメインMixであるClub Versionも極上ですが、このTimeless Piano Versionにはそれとはまったく異なる「聴くHouse」としての魅力があります。DJユースで考えればフロアの流れを変えたい瞬間や、セットの終盤に空気を柔らかくしたい時に使える。そして自宅で聴けば、ピアノの細かなタッチやコードの響き、リズムの隙間までジックリ追いかけるコトができる。クラブでしか成立しないHouseでもなければ、リスニングだけを目的とした音楽でもナイ。その両方を行き来できるトコロが、このVersionの大きな魅力なんですよね。こういうMixを聴くと、12インチというフォーマットが単なるDJ用の道具ではなく、オリジナルとは違う楽曲の可能性を提示する場所でもあったコトを改めてカンジます。


ハデさではなく、美しさで記憶に残る12インチ

30年以上が経過した現在、この Timeless Piano Version を聴いても不思議なホド古さをカンジません。それはおそらく、当時流行していた音色や派手なエフェクトに頼るのではなく、ピアノ、リズム、そして空間という普遍的な要素だけで作られているからでしょう。時代が変わっても、美しいコードは美しいし、ココチ良いグルーヴはココチ良い。タイトル通り、この曲そのものがまさにTest Of Timeを乗り越えてきたようにも思えます。ハデさではなく、美しさで記憶に残る…そんな12インチを探しているなら、このMixは間違いなく特別な存在です。針を落として少し部屋の明かりを落とせば、静寂とグルーヴの狭間で、時間そのものがゆっくり溶けていくような感覚を味わえるハズです。

 

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