
Master Fuol / It’s On!
アングラの渋さと即効性が共存する、現場直結のバウンス・チューン。2001年、US西海岸のアンダーグラウンドからひっそりとリリースされた1枚。しかし聴いた瞬間、その「ひっそり」という言葉は完全に裏切られるっ!今回レコメンドするMaster Fuol / It’s On!は、クラブという現場でこそ真価を発揮する、極めて実践的なHipHopサウンドです。
1 Eyeが作り出す現場直結のHipHopサウンド
まず特筆すべきは、プロデューサー1 Eye (One Eye)の手腕でしょうね。1999年にIce Cube / You Can Do Itのヒットで一躍シーンに名を刻んだ彼らしい、ブ厚くも抜けの良いビートメイキングがこの曲でも炸裂しています。イントロから鳴り響くチョップの効いたサンプルは、ドコかユーモラスでありながらも鋭い切れ味を持ち、その上にのるキックとスネアはタイトで硬質っ!余計な音を詰め込むのではなく、ひとつひとつの音をしっかり前に出すコトで、シンプルながら強烈なグルーヴを生み出しています。ブレイクに入った瞬間、フロアの空気をイッキに掌握するあの感覚…まさに現場主義という言葉がふさわしいサウンドでしょう。
荒々しいビートと華やかなR&Bコーラス
そこに絡むのが、華やかな女性R&Bコーラス…荒々しいビートとのコントラストが絶妙で、フックではイッキに開けた景色を見せてくる。この展開の作り方がとにかく巧いっ!アンダーグラウンド特有のザラついた質感を保ちながら、メインストリームにも通用するキャッチーさを持たせるバランス感覚は、1 Eyeのセンスの高さを物語っています。ゴリゴリのHipHopサウンドだけで最後まで押し切るのではなく、R&B的な華やかさを絶妙なタイミングで差し込むコトによって、フロアで聴いた時の開放感をしっかり作り出している。この「荒さ」と「キャッチーさ」の共存こそ、It’s On!を単なるアングラHipHopで終わらせない大きな魅力になっています。
Master Fuolのラップとクセになるバウンス感
Master Fuolのラップは、ハードコアで勢い重視のスタイル。高速で畳み掛けるフロウは荒削りながらも、このトラックのバウンス感と見事に噛み合っています。リリックも「今この瞬間を楽しもうぜっ!」「フロアでブチ揚がろうぜっ!」といったシンプルでストレートなメッセージが中心で、難しく考えながら聴くというより、理屈ではなくカラダで反応させるタイプの1曲となっています。そして何より、この曲の核となるのがベースライン…太く、弾力があり、しなやかにうねる低域は、一度体感するとクセになる中毒性を持っています。ラップ、ビート、ベースが一体となって前へ前へと押し出してくる感覚は、音量を上げれば上げるほどその威力が増してくるっ!
12インチで鳴らしてこそ分かる低域の強さ
無駄を削ぎ落とした音数ながら、クラブの大型スピーカーで鳴らした時に最大限の効果を発揮するよう緻密に設計されているのが伝わってくるっ!こういうタイプの曲は、小さな音で聴いているだけでは本当の魅力が分かりにくいかもしれません。しかし12インチに針を落とし、キックとベースをしっかり鳴らしてみると印象は一変する。低域が空間を押し出し、硬質なスネアがその上を切り裂き、女性コーラスが入った瞬間に視界がパッと開ける…まさにDJがフロアで使うコトを前提として作られたようなサウンドです。音楽そのものの良さはもちろんですが、「レコードを大きな音で鳴らす」という行為まで含めて完成するタイプの12インチでしょうね。
チャートではなく現場で生き残る1枚
当時のシーンは、アンダーグラウンドとメインストリームの境界が揺れ動いていた時期でした。そんな中でこのIt’s On!は、その両者を軽やかに横断する存在として、ローカルのDJたちの間で密かに支持を集めていました。派手なチャートアクションこそないが、現場で選ばれ続ける強い曲とはまさにこういうものでしょう。有名な曲だから盛り上がるのではなく、知らない曲なのにビートが鳴った瞬間にカラダが反応してしまう…DJにとって、こういうレコードは実に頼もしい存在です。リリースから25年近く経った今でも、このトラックのフロア適応力は全く色褪せていないっ!むしろ現代のDJセットの中に差し込むことで、その芯の強さがより際立つハズでしょうね。針を落とせば、すぐにわかる。これは理屈ではなく、カラダで理解するタイプのレコードとなっています。


