
Melba Moore / Let's Go Back To Lovin'
煌めくフィリー・サウンドが、恋とフロアの熱を呼び戻す。1982年という時代は、Discoブームの終焉を経ながらも、その熱量がより洗練されたBoogieやModern Soulへと進化していった時代でした。そんな過渡期にリリースされた Melba Moore / Let's Go Back To Lovin' は、まさに70年代Philly Soulの多幸感と80年代の都会的グルーヴが絶妙に交差した隠れた名曲です。本作はアルバム What A Woman Needs 収録曲でありながら、アルバム後半に配置されていたコトで本来のサウンドの魅力がやや埋もれてしまっていた1曲…しかし、このUKオリジナル12インチに針を落とすと、その印象は大きく変わってきます。
針を落とした瞬間に広がるPhilly Soulの多幸感
針を落とした瞬間に耳へ飛び込んでくるのは、きらびやかなストリングスと軽快なカッティング・ギター…フィラデルフィア流儀の華やかなアレンジがイッキに空気を塗り替え、まるで当時のN.Y.のダンス・フロアへ瞬間移動させられるような感覚に包まれます。とにかくイントロが素晴らしいっ!タイトに刻まれるビートの上を、抜群の抜け感を持つギターリフが駆け抜け、その後ろでストリングスが高揚感を煽っていく展開は、まさに黄金期Philly Soulの真骨頂っ!さらに低域をしっかり支えるベースラインが絶妙で、ただ華やかなだけでは終わらない踊れる重心を作り上げています。上モノは華麗なのに、リズムへ耳を向けると実にタイトでFunky…この二面性こそが、DiscoからBoogieへと移り変わっていった80年代初頭らしいサウンドでしょうね。
70s Philly Soulと80s Boogieが交差する絶妙なグルーヴ
この曲がおもしろいのは、1970年代的なDiscoの華やかさを残しながら、サウンド全体にはすでに80年代らしい洗練が漂っているトコロです。ストリングスやギターにはPhilly Soul黄金期の残り香が濃厚に漂っている一方、リズム・セクションは贅肉を削ぎ落とし、よりタイトで都会的になっている。DiscoからModern Soul、さらにBoogieへ…Dance Musicが次の時代へ向かっていた瞬間が、そのまま音になっているようなんですよね。だからこそ純粋な70s Discoのセットにも馴染むし、80s Boogieへ繋いでも違和感がナイ。この絶妙な時代の境界線に存在しているコトこそ、Let's Go Back To Lovin' の大きな魅力だと思います。
Melba Mooreのヴォーカルが生み出す解放感
そしてナニより、この曲を特別なものにしているのがMelba Mooreのヴォーカルでしょう。伸びやかでエネルギッシュ、それでいてドコか優雅…決して力任せに押してくる歌唱ではナイのに、フックへ向かうにつれて声の熱量が少しずつ高まり、高音域まで勢いよく駆け上がっていく瞬間には何とも言えない解放感があります。その歌声には、80年代初頭のダンスフロアが持っていた希望やポジティヴなエネルギーが、そのまま封じ込められているようですね。華やかなオーケストレーションに埋もれるコトなく、むしろ楽器と一緒になってグルーヴを押し上げていく…この力強さと優雅さのバランスは、Melba Mooreというシンガーならではの魅力でしょう。
「もう一度愛へ戻ろう」というポジティヴなメッセージ
リリックのテーマはタイトル通り「もう一度愛を取り戻そう」というメッセージ…別れやすれ違いを経たあとでも、再び愛へ戻ろうとする前向きな感情が込められています。失った愛を嘆くのではなく、「もう一度始めよう」と未来へ向かっていく。そのポジティヴな空気感がサウンド全体の輝きと見事にリンクしているんですよね。Melba Mooreの伸びやかなヴォーカルでこのメッセージを聴いていると、単なる男女のラブソングというより、何か新しい場所へ踏み出していくための曲のようにも聴こえてくる。だからこそフロアで鳴らした時にも、聴いている人の気持ちを自然に持ち上げてくれるのでしょう。
McFadden & Whiteheadが生み出す幸福感
プロデュースを手がけるのはMcFadden & Whitehead。Philly Soul黄金期を代表するこのコンビらしく、本作でも「幸福感を音に変換する」という表現がピッタリなアレンジを聴かせてくれます。ハデすぎず、それでいて確実にココロを持ち上げる。ストリングス、ブラス、ギター、ベース、リズム、そしてヴォーカル…それぞれの音が主張しすぎるコトなく絶妙に噛み合い、ひとつの大きなグルーヴを生み出しているんですよね。彼らの代表曲 Ain't No Stoppin' Us Now にも通じる前向きなエネルギーをカンジさせながら、こちらはもう少し大人っぽく、しなやかなサウンド。この洗練された高揚感こそ、長年Soul Musicを作り続けてきた2人ならではの職人的なセンスでしょう。
DiscoからModern Soul、Boogieを繋ぐDJユース
クラブDJ視点で聴いても非常に優秀な1曲で、特にDisco〜Modern Soul〜Boogieを横断するセットでは抜群の効果を発揮するでしょう。ピークタイムで強烈にフロアを煽るタイプではなく、ウォームアップから少しずつ温度を上げていく時間帯や、それまでの空気を明るく切り替えたい瞬間にハマる絶妙なテンション感があります。イントロから自然に身体を動かし、ヴォーカルが入ればさらに空気が華やかになり、フックではフロア全体がふっと開ける…こういう曲はDJにとって本当に使いやすいんですよね。ハデな一撃ではなく、選曲の流れの中でジワジワ効いてくる。長くDJに愛されるDance Musicには、こうした絶妙な温度感が必要なんだと思います。
UKオリジナル12インチで聴く意味
さらに重要なのは、この曲をUKオリジナル12インチで聴いた時のサウンドです。アルバムでは後半に収録されている楽曲ですが、この12インチで鳴らすとベースの太さ、ストリングスの広がり、ギターのキレ味、そしてMelba Mooreのヴォーカルの抜け感が実に気持ちイイっ!特にイントロからリズムが立ち上がってくる瞬間の存在感は格別で、このグルーヴ感は12インチで聴いてこそ真価を発揮するサウンドですね。アルバムの中では何気なく通り過ぎていた曲が、12インチで聴いた途端に「こんなにイイ曲だったのか」と印象を変える…レコードを掘っていると時々そんな体験がありますが、この Let's Go Back To Lovin' はまさにその典型と言える1枚でしょう。
知っている人ホド反応する隠れたDisco名曲
華やかな大ヒット曲ではナイ。しかし、だからこそ知っている人ほどニヤリとする極上のDiscoサウンドっ!レコードを長く掘っていると、誰もが知っているClassicとは別に「ナゼこの曲はもっと知られていないんだろう」と思う曲に出会うコトがあります。Let's Go Back To Lovin' は、まさにそんな1曲でしょう。きらびやかなPhilly Soulの残り香と、80s Boogieの都会的な洗練、そしてMelba Mooreの伸びやかなヴォーカル。そのすべてが絶妙なバランスで共存しているからこそ、時代を経た今でもまったく古びて聴こえないんですよね。Disco、Modern Soul、Boogieを掘っている人なら、長くレコードを聴いている人ホド深く刺さる1枚だと思います。針を落とせば、きっとフロアの照明まで見えてくるハズです。

