
Bill Withers / Harlem
ハーレムの空気感をそのまま刻み込んだ、剥き出しのStreet Soul。1971年に発表されたBill Withersの歴史的デビューアルバム Just As I Am。そのA面1曲目を飾った最重要曲がこのHarlemです。今回レコメンドするのは、1989年に初めて12インチ化されたEU盤オリジナル。Ben Liebrandによるダンサブルな Harlem '89 を収録したシングルですが、やはり針を落として欲しいのはオリジナル・バージョンでしょう。
ハーレムの街角を歩くような生々しいサウンド
イントロで鳴るアコースティック・ギターの乾いたカッティング…その背後で静かに緊張感を漂わせるストリングス。さらに重心の低いドラムがジワジワとグルーヴを押し上げていく展開は、まるで1970年代初頭のN.Y. ハーレムの街角を歩いているような生々しさがあります。煌びやかな装飾で聴き手を引き込むのではなく、必要最低限の音だけで空気そのものを作り上げていく。その乾いた音像からは街のざわめきや人々の息遣いまで聞こえてくるようで、スタジオで作り込まれたSoul Musicというより、街で鳴っている音をそのままレコードへ閉じ込めたようなリアリティがありますね。この飾らナイ感覚こそ、Bill Withersというアーティストの魅力そのものなのでしょう。
無骨なドラムが生み出すStreet Soul
特に印象的なのはドラムの音作りです。冒頭のタム回しから乾いたスネアへ繋がるアレンジは、当時のSoul Musicとしてもかなり無骨なビート。華やかなMotownサウンドとは真逆とも言える質感で、低い位置からズシッと押してくるリズムには独特の重さがあります。Bill Withersは音楽で成功する以前、工場で働きながら音楽活動を続けていたという異色の経歴を持つシンガーですが、その飾らナイ人物像とこの曲のサウンドは不思議なホド重なって聴こえてきます。洗練されすぎていないからこそ伝わる人間臭さ…その剥き出しの感覚が、Harlemという曲に強烈なStreet Soulとしての説得力を与えています。
Booker T. Jonesが与えた泥臭さと知性
プロデュースを手掛けたのはBooker T. Jones。Booker T. & the M.G.'sで培われた泥臭いSouthern Soul感覚と、洗練されたアレンジ感覚が絶妙に同居しており、Harlem のヘヴィなビートに知性を与えています。ギター、ドラム、ストリングス、ヴォーカルという比較的シンプルな構成でありながら、ひとつひとつの音が入ってくるタイミングや強弱が実に巧い。音数を増やして迫力を出すのではなく、必要な瞬間に必要な音だけを加えるコトで曲の熱量を少しずつ上げていく。シンプルなのに異様なまでに引き込まれるのは、この絶妙なバランス感覚によるものかもしれませんね。
静かな歌い出しから爆発するBill Withersの熱量っ!
楽曲構成も見事ですっ!抑制された歌い出しから始まり、曲が進むにつれて少しずつ楽器の音数とヴォーカルの熱量が増していく。そしてサビでは、それまで内側へ溜め込んでいたモノを一気に吐き出すかのようにBill Withersのソウルフルな叫びが爆発する。この熱量の上昇こそが Harlem 最大の魅力です。最初から全力で押してくるのではなく、ジワジワと聴き手を引き込み、気がつけば完全にその世界へ入り込んでいる。決してハデではないのに、聴けば聴くほど身体の奥へ入り込んでくる中毒性があります。この感情の積み上げ方にも、後の Ain’t No Sunshine や Lean On Me へとつながっていくBill Withers独特の表現力をカンジますね。
街ではなく「そこで生きる人」を歌ったHarlem
リリックでは、Harlemという街に生きる人々の日常やエネルギー、そして誇りが描かれています。しかし単なる街の風景を描写した歌ではなく、そこに暮らす人間の生活や温度まで伝わってくるトコロがBill Withersのスゴさでしょう。特別な人物やドラマティックな出来事を歌うのではなく、ごく普通の人々の日常を見つめ、その中に存在する喜びや苦しみをSoul Musicとして鳴らしてしまう。この人間を見る目線の温かさは、後年の代表曲にも一貫して流れていくBill Withersの大きな魅力です。だからこそ半世紀以上が経過した現在でも、Harlemは単なる1971年の作品ではなく、人間の歌として妙にリアルに響いてくるのでしょうね。
1989年、クラブカルチャーの中で再び命を得た1曲
1971年当時、この曲は派手なチャートアクションを狙った作品ではありませんでした。しかし時代を経る中でSoulファンやDJから改めて注目され、1989年にはBen Liebrandによる Harlem '89 とともに12インチとしてリリースされます。80年代末から90年代初頭にかけて、過去のSoulやFunkを新しい耳で掘り起こすRare Groove的な感覚がクラブカルチャーの中で広がっていった時期だけに、Harlemのような生々しいグルーヴを持つ楽曲が再びDJの手に渡ったコトには大きな意味があったのでしょう。アルバムのA面1曲目として存在していた1971年のSoulが、約18年の時間を経て12インチというDJユースのフォーマットで再びフロアへ戻ってくる…こうした時代を超えた音楽の循環も、レコードを掘るおもしろさのひとつですね。
Harlem '89ではなくオリジナルを聴いてほしい理由
Ben Liebrandによる Harlem '89 の4つ打ちRemixももちろん素晴らしいです…ですが、この盤を特別なものにしているのは、やはりカップリングに収録されたオリジナル・バージョンの存在でしょう。Remixによってダンサブルに生まれ変わったHarlemと、1971年の空気をそのまま閉じ込めたようなオリジナル。この2つを12インチの表裏で聴き比べるコトによって、時代によってグルーヴの捉え方がどのように変化したのかまで楽しむコトができます。しかし最後に戻ってきたくなるのは、やはりあの乾いたギターと無骨なドラム、そしてBill Withersの声なんですよね。華やかさではなくリアルを鳴らしたSoul Music。針を落とせば50年以上前の音楽とは思えないホド生々しく、目の前で人が歌っているような感覚すらある。だからこそ今聴いても、この曲は妙に胸へ刺さるんでしょうね。


